2023年7月6日木曜日

1.夢


「きゃーーーっ!」


 ダンジョン内にミカの悲鳴が響き渡る。


「どうした!?」


 慌ててクロムが振り向くと、クラブタイプのバリアントがミカに巨大な腕のハサミを振り上げていた。キキがそれを許すはずがない。素早く二丁の銃を構えた。


「どけ! 射線が通らね! チッ!」


 目の前に、アル、ミカ、ミルフィーが立ち塞がる。


「ミカ-!!!」


 駆け出したアルはそのまま地面に転がる大剣を拾い、ミカに肩からぶつかる。入れ替わったアルに非情なハサミが降り下ろされた。一瞬、アルにはそれが止まって見えた。


『ガキン!』


 アルは余裕で頭上に構えた大剣でそれを斜めに受け流し、そのまま大剣を大きく振り回しながら空中に飛び立つ。頭上に構えた大剣を、頭部目掛けて振り下ろす。


『グシャン!』


 アルは頭部を大きくかち割った。


「アル! アル!」


「ははは~。そんなに泣くなよミカ…」


「アルお兄ちゃんってば! もう! 私に起こしてって、言ったじゃない!」


 妹のモユルが怒って部屋に起こしに来たが、


「う。う~ん…。あ…。あれ~? 俺の大剣、エクスカリバーは~?」


「もう、知らない!」


 アルの目覚めは寝ぼけていて、モユルはドアをバタンと閉めて部屋を出て行った。


「あ~。あれは夢だったのか~…」


 そして、アルは出掛ける支度を始めた。





 ここは惑星:スピリット。この惑星には多くのモンスターが棲んでいて、生憎、人族とモンスターは敵対関係にある。どちらもそれを捕まえて食糧としているからだ。


 この街はラビアンローズと呼ばれている。それほど大きな街ではないが、病院などの最低限の施設は揃っている。街並みは石造りの建物が多く、緑は少ない。


 アルは地球系三世の十五歳の少年で、髪の色は黒い。地球系三世なのは祖父が若い時に地球からこの星に訪れたからだ。地球が核の冬で住めなくなり移住してきた。しかし、全く住めないという訳ではなく、一部の人々は今も地球に残っている。もう40年も昔の話になるが。


「じいちゃん、行ってくるよ!」


「おう。気を付け行ってこい」


 今日はアルが冒険者登録に向かう日だ。


「おはよ! アル!」


「うわあっ! びっくりしたな~。なんだ、ミカか」


 早速、家を出発したアルの両肩に突然背後から手を掛けたのは、近所に住む幼馴染の少女のミカだ。髪は緑色のショートボブで、目はクリっとしていて可愛らしい。ミカはしてやったりとほくそ笑みながら、アルの隣に並ぶ。


「どこに出掛けるの?」


「この格好を見ればわかるだろ。冒険者登録に行くんだよ」


「ああ~。そういえば、そんなこと言ってたわね」


「おまえこそ、どこに行くんだよ?」


「この格好を見ればわかるでしょ!」


 見た目でそれとなく気付いていたアルだが、皮肉も込めて敢えて聞き返していた。


「ついでなんだし、一緒に行きましょ!」


 こうして、アル達は二人で冒険者ギルドに向かうことになった。




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