2023年8月2日水曜日

6.ギルドマスターとクロム

 


「ダンジョンだ! ダンジョンが現れたんだよ!」


「ちょっと落ち着いてください。話の内容がよく分かりません」


 アルとミカがギルドに到着すると、先程の男がカウンターで大声を上げていた。二人目の女性の職員が男に水を手渡す。


「はあ、はあ、済まない。ずっと走りっぱなしだったからな」


 男はその水を飲み干すと、少し落ち着きを取り戻した。


「ダンジョンだ。ダンジョンが現れた」


「それはさっきも聞きました。ダンジョンなんてどこにでもあるでしょう」


 この星にはダンジョンと呼ばれる、未だ解明することができない未知のエリアが存在する。それは攻略されると消滅し、また別の場所に現れる。


「違うんだ。街のすぐ近くに現れたんだよ!」


 男の言葉にギルド内はどよめく。そして、カウンターの奥からマッチョな男が現れる。


「その話は、本当なのかしら?」


 この男はオカマだが、この街のギルドマスターだ。


「本当だ、マスター。俺はこの目で見てきたんだ。信じてくれよ~」


 嘆願する男の瞳を、ギルドマスターが覗き込む。そしてじっくりと見つめたあと、


「まあっ! みんな聞きなさい! ダンジョンが出現したわよ!」


 両手を頬に添えながら姿勢を戻し、確信を持ってそう告げた。


「うぉーーー! ダンジョンだ!」


「街の近くに、ダンジョンが現れたぞ!」


「酒持って来い!」


「今日は飲みまくるぞ!」


「うぉーーーー!」


 ギルド内に歓声が巻き起こり、お祭り騒ぎになる。


「あなた。私にもう少し、詳しく説明しなさい」


 怪しく微笑んだギルドマスターは、男をお姫様抱っこする。男は、止めてくれ、恥ずかしいと泣き叫び抵抗するが、そのままギルドの奥にお持ち帰りされた。



 ★



「おう! ここも賑わってるな!」


 騒ぎ始めたギルド内の視線が、入口に集まる。そして、そこで呆気に取られていたアルとミカは横を向く。


「あっ! クロム、帰ってたのか!」


「ようアル! 久しぶりだな~。元気だったか?」


 クロムは、アルの髪をぐしゃぐしゃした。


「「「キャーーー!!!」」」


「クロム様よ!!!」


「カッコいいー!」


「ステキよー!」


「キャー! キャー! キャー!…」


『バタン バタン バタン』


 黄色い声援が飛び交い、女性冒険者達がその場に意識を失い倒れていく。そんな中、先程の男とギルドマスターが奥から戻って来る。ギルドマスターはそのまま、クロムの前に歩み寄る。


「おかえりなさいクロム。調子はどう?」


「まあ~、ぼちぼちだ」


「あらそう。それは良かったわ」


 ギルドマスターが熱いウィンクを贈った。それを切っ掛けにして、


「クロムが帰ってきたぞー!」


「うぉーーーーー、クロムだー!」


 再びギルド内が盛り上がった。


 この白髪のラフな服装をした男は、クロムと言う。この街で生まれ育った、Aランクの冒険者だ。


 冒険者には、ランクが付けられている。ランクはFから始まり、最高がSSSだ。しかし、SSSの者は現在存在しない。また、SやSSランクの冒険者も数えるほどしか存在しない。そして、クロムは次のSランク冒険者と噂をされている。


「にしても、街の騒ぎとは少し雰囲気が違うな~。何かあったのか、アル?」


「ダンジョンが、近くで見つかったんだ」


 クロムは目を丸くしたがアルの肩に片手を置き、


「はっはっは~! そりゃ~、めでていこった!」


 もう片方の手で顔を押さえて高らかに笑った。


 クロムは、アルと仲が良い。時々、クロムがアルのおじいさんに会いに、家に訪れているからだ。しかし、訪れて来る理由は、アルは知らない。


「丁度良かったわ。クロム、そのダンジョンを調べてくれないかしら?」


「おいおい。俺はさっきこの街に来たばかりなんだぜ。それに、祭りを見に来たんだ」


 ギルドマスターの話にクロムは面倒臭そうにしているが、


「そんなこと言って~。実は、気付いていたんでしょ?」


 この話にピクリと反応を示した。ギルドマスターは体をくねらせながらクロムに近づく。


「や、やめろ! 俺にその毛はない!」


 クロムは蟹股で、後ろに後退った。


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