「ダンジョンだ! ダンジョンが現れたんだよ!」
「ちょっと落ち着いてください。話の内容がよく分かりません」
アルとミカがギルドに到着すると、先程の男がカウンターで大声を上げていた。二人目の女性の職員が男に水を手渡す。
「はあ、はあ、済まない。ずっと走りっぱなしだったからな」
男はその水を飲み干すと、少し落ち着きを取り戻した。
「ダンジョンだ。ダンジョンが現れた」
「それはさっきも聞きました。ダンジョンなんてどこにでもあるでしょう」
この星にはダンジョンと呼ばれる、未だ解明することができない未知のエリアが存在する。それは攻略されると消滅し、また別の場所に現れる。
「違うんだ。街のすぐ近くに現れたんだよ!」
男の言葉にギルド内はどよめく。そして、カウンターの奥からマッチョな男が現れる。
「その話は、本当なのかしら?」
この男はオカマだが、この街のギルドマスターだ。
「本当だ、マスター。俺はこの目で見てきたんだ。信じてくれよ~」
嘆願する男の瞳を、ギルドマスターが覗き込む。そしてじっくりと見つめたあと、
「まあっ! みんな聞きなさい! ダンジョンが出現したわよ!」
両手を頬に添えながら姿勢を戻し、確信を持ってそう告げた。
「うぉーーー! ダンジョンだ!」
「街の近くに、ダンジョンが現れたぞ!」
「酒持って来い!」
「今日は飲みまくるぞ!」
「うぉーーーー!」
ギルド内に歓声が巻き起こり、お祭り騒ぎになる。
「あなた。私にもう少し、詳しく説明しなさい」
怪しく微笑んだギルドマスターは、男をお姫様抱っこする。男は、止めてくれ、恥ずかしいと泣き叫び抵抗するが、そのままギルドの奥にお持ち帰りされた。
★
「おう! ここも賑わってるな!」
騒ぎ始めたギルド内の視線が、入口に集まる。そして、そこで呆気に取られていたアルとミカは横を向く。
「あっ! クロム、帰ってたのか!」
「ようアル! 久しぶりだな~。元気だったか?」
クロムは、アルの髪をぐしゃぐしゃした。
「「「キャーーー!!!」」」
「クロム様よ!!!」
「カッコいいー!」
「ステキよー!」
「キャー! キャー! キャー!…」
『バタン バタン バタン』
黄色い声援が飛び交い、女性冒険者達がその場に意識を失い倒れていく。そんな中、先程の男とギルドマスターが奥から戻って来る。ギルドマスターはそのまま、クロムの前に歩み寄る。
「おかえりなさいクロム。調子はどう?」
「まあ~、ぼちぼちだ」
「あらそう。それは良かったわ」
ギルドマスターが熱いウィンクを贈った。それを切っ掛けにして、
「クロムが帰ってきたぞー!」
「うぉーーーーー、クロムだー!」
再びギルド内が盛り上がった。
この白髪のラフな服装をした男は、クロムと言う。この街で生まれ育った、Aランクの冒険者だ。
冒険者には、ランクが付けられている。ランクはFから始まり、最高がSSSだ。しかし、SSSの者は現在存在しない。また、SやSSランクの冒険者も数えるほどしか存在しない。そして、クロムは次のSランク冒険者と噂をされている。
「にしても、街の騒ぎとは少し雰囲気が違うな~。何かあったのか、アル?」
「ダンジョンが、近くで見つかったんだ」
クロムは目を丸くしたがアルの肩に片手を置き、
「はっはっは~! そりゃ~、めでていこった!」
もう片方の手で顔を押さえて高らかに笑った。
クロムは、アルと仲が良い。時々、クロムがアルのおじいさんに会いに、家に訪れているからだ。しかし、訪れて来る理由は、アルは知らない。
「丁度良かったわ。クロム、そのダンジョンを調べてくれないかしら?」
「おいおい。俺はさっきこの街に来たばかりなんだぜ。それに、祭りを見に来たんだ」
ギルドマスターの話にクロムは面倒臭そうにしているが、
「そんなこと言って~。実は、気付いていたんでしょ?」
この話にピクリと反応を示した。ギルドマスターは体をくねらせながらクロムに近づく。
「や、やめろ! 俺にその毛はない!」
クロムは蟹股で、後ろに後退った。

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