2023年8月12日土曜日

8.準備


 「出発は明日の朝だ! お前ら準備しとけよ!」


「は、はい!」


 振り向いたクロムは、そこに居る仲間達に指示を飛ばした。すると、頭からローブを纏っている少女が緊張して声を上げた。


「アル達も、それでいいか?」


「うん、いいよ!」


「私も、いいわ」


「よし! それじゃあ明日の朝8時に、南門に集合だ!」


 クロムは全員に伝わるように、再び指示を飛ばした。そして、仲間達と細かな打ち合わせを始める。


「アル。移動はどうする?」


「どうすっかな~。じいちゃんに、頼んでみるかな~…」


「それは心配するな。今回は俺達が運んでやるよ。何なら、装備も貸してやるぞ?」


 クロムたちを見ていたミカが不安げに尋ね、アルも悩んだ。クロムが振り向き二人に提案すると、ミカの顔が少しこわばる。


「そ、装備はいいわ。自分の物を使った方が、動き易いし。それに…」


「臭そうとか、言うんだろ?」


「言ってないじゃない!」


 ミカはもじもじし始め、話を途中で止めた。アルがその心を見抜き、図星なミカは顔を真っ赤に染めながら声を張り上げた。


「あははは。女の子だもんな~」


 クロムが再びミカの頭を撫でる。


「もう! アルのバカ!」


 その手を払い除けたミカは、アルとじゃれ合い始める。


「それならそっちは任せるぜ~」


 クロムはひらひらと手を振り再び仲間の方に振り向く。


「お前ら、そろそろ宿に向かうぞ」


「はーい」


 仲間のもう一人のローブを纏った少女が無感情に返事を戻し、クロム達はギルドをあとにした。


「アル。このあと、どうするの?」


「俺は明日の準備をするから、一回家に帰るよ」


「そうね。私も、明日の準備をしようかな」


 アルとミカもギルドをあとにし、それぞれの家に帰った。



 ★



「じいちゃん、ただいまー」


「おう、お帰り。どうじゃった?」


「力の適正だったよ」


「そうかそうか。良かったな」


 おじいさんはモニターを見ながら尋ね、お茶をすすりつつ返事を戻した。


「なんか、反応が薄いな~」


「まあ、予想はしてたからの。アルは不器用じゃから、こうなると思っとったよ」


 アルのハートにグサリと何かが突き刺さった。


「ふぉふぉふぉ」


「ひでーな~。まあ、いいけど」


 おじいさん微笑ましく笑い、アルの直ちに立ち直った。アルは、ポジティブだった。


「それよりさ、じいちゃん」


「なんじゃ?」


「明日、クロム達とダンジョンに行くことになったよ」


 流石に、これにはおじいさんも驚いた。


「急な話じゃな。何があったんじゃ?」


 アルはおじいさんに今日の出来事を話した。


「そうか。そんなことがあったのか」


「行っても、いいだろ?」


「ああ、構わんよ。じゃがの、ダンジョンは危険だと言うことは忘れるなよ?」


「わかってるさ」


「それならいい。クロム達に、迷惑を掛けんようにな」


「それも、わかってるよ! ところでじいちゃん、俺の装備はどこだ?」


 アルは、このままではまた昔話を聞かされると考えたのであろう。突然話題を変えた。


「それなら、洗濯をして押し入れにしまっておいたぞ」


「わかった。ありがと!」


 少し戸惑ったおじいさんがそう伝え、返事を戻したアルは押し入に向う。


(やはり、ダンジョンが現れたか…。何事も起こらなければ、いいがの…)


 おじいさんは、実はアルのことを心配していた。そして、せんべいをかじりながら、再びモニターでニュースを眺め始めた。


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