「出発は明日の朝だ! お前ら準備しとけよ!」
「は、はい!」
振り向いたクロムは、そこに居る仲間達に指示を飛ばした。すると、頭からローブを纏っている少女が緊張して声を上げた。
「アル達も、それでいいか?」
「うん、いいよ!」
「私も、いいわ」
「よし! それじゃあ明日の朝8時に、南門に集合だ!」
クロムは全員に伝わるように、再び指示を飛ばした。そして、仲間達と細かな打ち合わせを始める。
「アル。移動はどうする?」
「どうすっかな~。じいちゃんに、頼んでみるかな~…」
「それは心配するな。今回は俺達が運んでやるよ。何なら、装備も貸してやるぞ?」
クロムたちを見ていたミカが不安げに尋ね、アルも悩んだ。クロムが振り向き二人に提案すると、ミカの顔が少しこわばる。
「そ、装備はいいわ。自分の物を使った方が、動き易いし。それに…」
「臭そうとか、言うんだろ?」
「言ってないじゃない!」
ミカはもじもじし始め、話を途中で止めた。アルがその心を見抜き、図星なミカは顔を真っ赤に染めながら声を張り上げた。
「あははは。女の子だもんな~」
クロムが再びミカの頭を撫でる。
「もう! アルのバカ!」
その手を払い除けたミカは、アルとじゃれ合い始める。
「それならそっちは任せるぜ~」
クロムはひらひらと手を振り再び仲間の方に振り向く。
「お前ら、そろそろ宿に向かうぞ」
「はーい」
仲間のもう一人のローブを纏った少女が無感情に返事を戻し、クロム達はギルドをあとにした。
「アル。このあと、どうするの?」
「俺は明日の準備をするから、一回家に帰るよ」
「そうね。私も、明日の準備をしようかな」
アルとミカもギルドをあとにし、それぞれの家に帰った。
★
「じいちゃん、ただいまー」
「おう、お帰り。どうじゃった?」
「力の適正だったよ」
「そうかそうか。良かったな」
おじいさんはモニターを見ながら尋ね、お茶をすすりつつ返事を戻した。
「なんか、反応が薄いな~」
「まあ、予想はしてたからの。アルは不器用じゃから、こうなると思っとったよ」
アルのハートにグサリと何かが突き刺さった。
「ふぉふぉふぉ」
「ひでーな~。まあ、いいけど」
おじいさん微笑ましく笑い、アルの直ちに立ち直った。アルは、ポジティブだった。
「それよりさ、じいちゃん」
「なんじゃ?」
「明日、クロム達とダンジョンに行くことになったよ」
流石に、これにはおじいさんも驚いた。
「急な話じゃな。何があったんじゃ?」
アルはおじいさんに今日の出来事を話した。
「そうか。そんなことがあったのか」
「行っても、いいだろ?」
「ああ、構わんよ。じゃがの、ダンジョンは危険だと言うことは忘れるなよ?」
「わかってるさ」
「それならいい。クロム達に、迷惑を掛けんようにな」
「それも、わかってるよ! ところでじいちゃん、俺の装備はどこだ?」
アルは、このままではまた昔話を聞かされると考えたのであろう。突然話題を変えた。
「それなら、洗濯をして押し入れにしまっておいたぞ」
「わかった。ありがと!」
少し戸惑ったおじいさんがそう伝え、返事を戻したアルは押し入に向う。
(やはり、ダンジョンが現れたか…。何事も起こらなければ、いいがの…)
おじいさんは、実はアルのことを心配していた。そして、せんべいをかじりながら、再びモニターでニュースを眺め始めた。

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