2023年10月28日土曜日

12.渦

 

 先を行くクロムが地上に降りて行く。どうやら目的地を見つけたようだ。アル達は少し遅れて、クロムの立っている場所に到着する。


 アルはボードから飛び降りて、クロムの横に並び立つ。


「これがダンジョンなのか?」


「そうだ」


 黒光りを放つ半径2メートルほどの渦が、空中に浮かんでいる。これがこの世界のダンジョンの入り口だ。


「あまり大きくないわね」


「聞いてた通りだな。この程度なら問題なく中を調べられそうだ。おい、お前ら! 支度しろ!」


「はい!」


「は~い」


 エルルがクロムの隣に立ち話かけると、クロムは応えながら皆に指示を飛ばした。ミルフィーがはっきり返事を戻し、キキが手を上げて応えた。それを合図に他のメンバーも動き出し、自分たちの装備の確認を始める。


「クロム」


「何だ?」


「乗り物はどうするんだ?」


 アルが乗り物に顔を向ける。


「ああ…。キキ、乗り物をお願い!」


「わかった~」


 隣に居るエルルが応え、キキが緩く返事を戻した。キキは乗ってきた乗り物の前で腰に付けている小型の箱を外し、蓋を開く。


【ストレージ~】


 そう声を出すと、目の前の乗り物が箱の中に消えた。側に居るミカが驚いている。


「なっ、何だあれ!?」


「アーティファクトよ。名前くらいは、聞いたことあるでしょ?」


「あれが、アーティファクトか!」


 アルも驚いたが、エルルの話で興奮し始める。この星にはアーティファクトと呼ばれる物が存在する。


 アーティファクトは古代文明の遺産とも呼ばれ、各地の遺跡やダンジョンなどで発見されることが稀にある。とても貴重な物のだが、クロムたちはそれをいくつか持っている。


「よ~し、お前ら~。中に入るぞ!」


「ですな!」


「しかたない。やるか」


 支度が終わりクロムが声を掛けると、マックスとグレンが返事を戻した。こうして、発見されたばかりのダンジョンの調査が始まった。


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 ファンタジー・SF小説ランキング
ファンタジー・SF小説ランキング

2023年10月24日火曜日

11.乗り物


 街の外に出ると、大きな荷台の付いた乗り物と小さ目な2つの乗り物が用意されている。アルとミカは、キキとミルフィーに付いて行く。


「私達は、これで行くよ~」


 キキが小さ目な2つの乗り物を紹介する。乗り物は2、3人が乗れるほどのサイズの板で、地面からは少し浮いている。前の部分には、上部が丸い形をした

舵取りのポールが立てられている。


「運転中は落ちないように、私達に掴まってね~」


「ミカちゃんは私の後ろに乗って」


 キキとミルフィーはそれだけ伝えると、板の上にぴょんと飛び乗る。勢いで

板が揺れることなく、安定した乗り物のようだ。アル達もそれに続いて板の上にぴょんと飛び乗る。


「それじゃ~、出発するよ~」


「ちょ、ちょっと!?」


 急発進でバランスを崩し、アルはキキにしがみつく。


「アルちゃん。私の大事なところは触らないで~」


 小さな二つの山を握られたキキは、無感情な声でアルに注意した。


「わわっ! ご、ごめんなさい…」


 アルは顔を赤くした。


「あいつ~! どさくさに紛れて、何やってるのよ! いやらしいわね~キャッ!」


「ミカちゃん、落ち着いて。あんまり動くと落ちちゃうよ…。あと、大事なところは握らないで欲しいな…」


「あっ! ご、ごめんなさい…」


 アルを睨み付けたミカは、バランスを崩した。大きな二つの山を握られたミルフィーは、恥じらいながら頬を赤くした。アルとミカの息は、バッチリなようだ。


「俺達が、先頭でいいのか?」


「大丈夫~。すぐに追い越されるから~」


 アルがキキの腰にしがみつきながら後ろに振り向くと、クロムが頭上を通り過ぎる。


「おう! アル、ミカ、腰が引けてるぞ! 背筋をもっと伸ばして、重心を前に倒せ!」


「こ、こうか?」


「こうかしら?」


 上空のクロムは空いている両手でここだと腰を叩き、アルとミカは背筋を伸ばす。二人はは自然にバランスが取れていき、体の力が抜ける。見届けたクロムは加速し、アル達の遥か前方に消えていく。


「お~い! ですな~!」


 後方の乗り物から、マックスが手を振っている。合流した空中に浮かぶその乗り物には、マックスとエルルが前に座り、後ろの荷台にグレンと荷物が乗っている。


「クロムは、先に行ったかしら?」


「うん。先に行ったよ~」


「そう。それなら、私達も先を急ぐわ」


 アル達はクロムを追いかけるように、そこから更にスピードを上げた。


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 ファンタジー・SF小説ランキング
ファンタジー・SF小説ランキング

2023年10月19日木曜日

10.集合

 

「うおぉぉぉっ! どうなってるんだこれ!?」


「この盾は、スタミナを消費する代わりにバリアを作り出すのですな」


「俺にもやらせてくれ!」


「いいともですな! 但し、成功するかは別ですな」


「わりー、わりー。遅れた」


 アルとマックスが会話を弾ませているとクロムが現れた。今は大きく欠伸をしている。


「遅いわよ!」


「おっ、怒んなよ! こいつの調子が少し悪くて、手間取ったんだ…」


 エルルが怒鳴り、クロムはスケートボードのような板を地面に突き立てた。


「昨日の内に、手入れしておかないからでしょ?」


「やったさ~。昨日は平気だったんだ。今朝、突然調子が悪くなってよ!

それで遅れたんだよ~」


 クロムはあまり反省していない様子だ。


「はあ…。まあ、いいわ。二人には今日の予定は伝えておいたから」


「お、サンキュー。流石、エルルだ!」


「褒めたって、何も出ないわよ!」


 クロムがエルルに顔を近付けた。怒ったような口ぶりで顔を背けたエルルだが、その頬は赤い。


「お~怖。二人共、悪かったな」


「いいよ、別に」


「私も。何となくクロムのことが分かったから」


「おい、おい…」


「クスクス」


 ミカは目を閉じて何かを悟っている。クロムは困惑し、それを見たエルルは声を殺しながら笑いを堪えている。


「ともかく! さっそく出発するか!」


「ええ!」


「行きますかな!」


「ようやくか!」


「行こう~!」


「頑張ります!」


 クロムの号令に、エルル、マックス、グレン、キキ、ミルフィー順に声を上げた。アルとミカは、憧れの眼差しで皆を見つめていた。


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 ファンタジー・SF小説ランキング
ファンタジー・SF小説ランキング

17.二匹目

   クロムとバリアントの戦闘が始まる。  クロムはAランクの冒険者だ。バリアントと言えど、一層に現れる奴に後れを取ることはない。ハサミの攻撃を軽く躱しながら、それを切り飛ばす。 「すご~い!」 「私達なら、あれぐらい平気だよ~」 「うん」  ミカ達は驚いているが、キキとミルフィ...