2023年7月18日火曜日

4.二人の適性


  しばらくの間、アル達は椅子に座ってスカイボールを観戦していた。そこへ、リーザが訪れる。


「はい、結果が出たわよ~。一応、中は見えないようになっているから安心してね」


 スキル適正は、冒険者にとっての秘密事項だ。検査を行ったリーザにも知られないように、機械から小さな封筒に入れられて出てくる仕組みだ。


「ありがと」


「ありがとー」


 受け取ったアルは待ちくたびれた顔をし、ミカはモニターから視線を外さなかった。


「で、試合は今、どうなっているの!?」


「えっとね~…」


 リーザがアルをお尻で押し退けて座り、ここから二人の試合観戦が始まる。封筒の中身が気になるアルは付き合うと言った手前、そこから逃げ出すことはことはできなかった。






「面白かったね~!」


「流石、決勝だったな!」


 なんだかんだ言いながらも、アルも夢中で試合を観戦していた。今は試合を振り返りながら、家に帰る途中だ。


「あの、ロベルトって人のオーバーヘッドキック! 凄かったわね!」


「ああ。密集したところからの、いきなりのシュートだったからな! キーパーも一歩も動けないでいた!」


「やっぱり~。アルもちゃっかり、見てたんじゃない~」


「あ…」


 ミカは今朝の道中の試合の出来事を話したが、アルはその時、興味がないような素振りを見せていた。しかし、実はしっかりと試合を横目で見ていた。その事がバレてしまい、アルは頭を掻いて照れ隠しをしている。


「面白かったし、今日は家でお昼を食べていかない? どうせ帰っても、何もないでんしょ?」


「いつも悪いな。お言葉に甘えて、ご馳走になるとするよ」


 アルはおじいさんと二人暮らしで、食事はいつも適当に済ませている。なので、時々ミカの家にお世話になっている。


「気にしなくてもいいわよ。家のお母さんも、アルが来ると喜ぶから」


 ミカは嬉しそうな顔をアルに見せた。アルが訪れることはお母さんだけではなく、ミカ自身も嬉しかった。


 こうして二人は、ミカの家に向かうことになった。



 ★



「お邪魔しまーす」


「あらアル君、いらっしゃい」


「お母さん、ご飯作って。もうお腹ペコペコ~」


 スカイボールの観戦をしていたので、時刻はすっかり昼になっている。


「はいはい、すぐ作るわね。それで、ギルドの適性検査はどうだったの?」


「まだ見てなーい。今から部屋に戻って見るわ」


「自分の好きな適正だといいわね。ご飯はすぐにできるから、早く降りてきないさね」


 二人は階段を上り、二階のミカの部屋に向かう。


「相変わらず、女の子の部屋だな~」


「何よ! 文句ある!?」


「いや、何でもない…」


 アルは、この乙女チックな部屋が苦手だった。そわそわしてしまい、落ち着けないからだ。





「早く、開けてみましょ!」


 アル達は座布団に座り、早速ギルドで渡された封筒を机の上に取り出した。


「何が出るのかしらね。楽しみ!」


 ミカは嬉しそうに、ハサミで封を切る。


「やっぱり魔法使いとかがいいな~。後ろなら安全だし、魔法を使える奴も少ないからな~」


 アルは話をしながら、ミカからハサミを受け取る。


「そうよね~。命あっての物種って言うし…」


 ミカは封筒の中を覗き込み、一枚の紙を取り出す。すると、


「あっ!!!」


 突然、大声で叫んだ。そして、


「見て見て! 私、精神の適性だったわよ!」


 アルを揺さぶりながら紙を見せびらかした。そのあと紙を胸に押し当てながら、目を閉じて喜びを噛み締める。


「良かったじゃないか! 前から魔法使いに、なりたいって言ってたし!」


「やっぱり私って、日頃の行いがいいのかしら。神様はちゃんと私のことを見てるのね~」


 少し羨ましく思ったがアルだがそれは顔に出さず、ここは幼いころからの希望であったミカの適性を素直に喜んだ。そのあとアルはハサミで封を切り、中から紙を取り出した。しかし、その表情は悩ましいものになっていた。


「俺は、力の適性だ」


 アルの適性は平凡なものだった。




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2023年7月15日土曜日

3.適性検査

 

 アル達はギルドに到着して中に進んだ。


「あれは凄かったな~」


「オーバーヘッドキックは最高だよな!」


「あの高い打点からは、キーパーも一歩も動けなかったな~」


 ここにもモニターがあり、スカイボールの話題でお祭り騒ぎだ。


「アル~。やっぱりちょっと見ていこうよ~!」


「まだ試合は始まったばかりだろ! あんなのを見てたら、あと二時間は掛かるぞ」


 スカイボールの試合時間は凡そ2時間だ。延長戦を含めると更に時間が掛かる。


「スキル適正をやったあとは、付き合うから~」


「絶対よ!」


 家で似てから来ればいいのにと思ったアルはカウンターに向かいながら手をひらひらさせた。必死なミカは力強くアルに訴えた。





 アル達はギルドのカウンターに訪れた。


「すみませ~ん。適性検査を受けに来ました~」


「は~い。ちょっと待ってね~」


『ワァーーー』


 カウンターに訪れたアルが奥に向けて声を飛ばすと返事は戻ってきたが、そのあと完成しか戻って来なかった。奥でもスカイボールを見ているからだ。


 アルは今日のお祭り騒ぎであればギルドは空いているであろうと甘く考えていた。しかし、当てが外れてうんざりと言った顔をする。そして更にしばらく待たされる。


「あらあら、ごめんなさいね。丁度いいところだったから、目が離せなくて」


 何の悪気もなく話をしたのは、エリーザと言う女性だ。歳は二十代後半でアル達とは知り合いだ。普段からラフなTシャツとスカートで、大人の色気を漂わせている。


「今日も二人で一緒なのね! お姉さん、焼けちゃうわ~」


「ちょ、ちょっと、やめてください! そんなんじゃありませんから!」


 ミカは未定したが顔は真っ赤だ。何故ならアルにほの字だからだ。


「はいはい、ごちそうさまでした。で、適性検査だったわね? すぐに用意するからちょっと待っててね」


 リーザはカウンターの奥に戻った。そして、アル達はしばらく放置された。





「はあ~」


「キャー! 凄いわよ! アルも見て!」


 溜息を吐いたアルだが、ミカは興奮してアルの体をぐいぐいと揺らされ今日がどうでも良くなってくる。


「お待たせ~。凄いわね~。アルも、スカイボールの選手になる?」


「ならないよ!」


 戻ってきたエリーザはからかうようにアルに尋ねたが、アルは顔を背けた。


「アル君のおじいさんは凄い人だったから、あなたもきっと凄い選手になれると思ったのに~」


「じいちゃんのことはいいから! それより! いい加減、早く終わらせてくれ!」


「はいはい。仕方ないわね~」


 おじいさんは若いころは凄かったが、アルはまだそれを理解していない。


「それじゃあ、ちょっとチクっとするけど、我慢してね」


 エリーザは適性検査のため、カウンター上のアルの左指にの道具を使った。


 この道具は洗濯ばさみのような形をしている。そこに小さな針が付いいて、採血を行う仕組みだ。


『ピピ!』


「次はミカちゃんね。アル君と同じように手をここに置いてね」


 ミカも同様にされた。


『ピピ!』


「はい。これで終わりよ。検査結果はすぐ出るから、スカイボールでも見てて」


 リーザは足早に奥のモニターへ向かった。ミカも別のモニターに向かい、


(大丈夫かな…?)


 アルの心には不安が残った。



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2023年7月9日日曜日

2.アルの気掛かり

 

「どうしたのよ? 浮かない顔をして。ひょっとして、まだ悩んでるの?」


「ん~~~」


 ミカはアルが冒険者として、どの職業に就くかを悩んでいることを知っていた。アルは腕を組みながら唸っている。


「自分の好きな道を、選べばいいじゃない? それとも、またおじいちゃんに何か言われたの?」


「まあな。盾使いになれって、しつこいんだよ」


 アルのおじいさんは、昔、盾使いだった。そのため、アルにもそれを継がせようとしていた。


「でも、そんなこと言っても、今から授かるスキル適正が盾向きなんて決まってるわけじゃないんだし、気にしても仕方がないでしょ」


 ミカの話は最もだった。


 この星にはスキル適正と呼ばれるものがある。アルのおじいさんは日本人なため、これを所持していない。しかし、その子供がこの星の者と結婚を果たして生まれアルには、これが芽生えている。


 スキル適正は、十五歳を過ぎたあとにギルドで解放の儀式を行うと判明する。そのあと、その適正と相談しながら自分の冒険者としての道を選ぶことが一般的だ。但し、この年齢制限は体に負担なくスキルを扱えるようになるのが15歳以上ということで、この街で決めたものだ。他の街ではこの限りではない。


「まあな。盾使いも悪くはないと思うけど…、やっぱりな~」


 アルは悩んでも仕方がない事をいちいち悩むタイプだったがその時、


『ワァァァーーーーー!!!』


 大歓声が至る場所から沸き起こった。今日は街中がお祭り騒ぎで、道に屋台なども並んでいる。


「凄いわよ! 見て見て!」


 ミカがアルの顔をグイっと動かした。そこには巨大なモニターが設置されていて、スカイボールと呼ばれるスポーツが映し出されている。


「今日は、決勝だったか? どっちが勝つんだろうな~」


「決まっているわよ! ミノタウロス・ホーンが勝つわ!」


 ミカはこのスカイボールのファンだった。アルを連れ回して観戦に出かけるほどだ。


「置いて行くぞ~」


 興味なさそうにして、アルは人込みの中を歩いて行く。


「ちょっと待ってよ!」


 置いていかれたミカは慌ててアルを追いかけ、再び隣に並んだ。


「少しぐらい、見ていたっていいじゃない。アルのケチ」


 アルはそれよりも、今から決まる自分のスキル適正が気掛かりだった。




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2023年7月6日木曜日

1.夢


「きゃーーーっ!」


 ダンジョン内にミカの悲鳴が響き渡る。


「どうした!?」


 慌ててクロムが振り向くと、クラブタイプのバリアントがミカに巨大な腕のハサミを振り上げていた。キキがそれを許すはずがない。素早く二丁の銃を構えた。


「どけ! 射線が通らね! チッ!」


 目の前に、アル、ミカ、ミルフィーが立ち塞がる。


「ミカ-!!!」


 駆け出したアルはそのまま地面に転がる大剣を拾い、ミカに肩からぶつかる。入れ替わったアルに非情なハサミが降り下ろされた。一瞬、アルにはそれが止まって見えた。


『ガキン!』


 アルは余裕で頭上に構えた大剣でそれを斜めに受け流し、そのまま大剣を大きく振り回しながら空中に飛び立つ。頭上に構えた大剣を、頭部目掛けて振り下ろす。


『グシャン!』


 アルは頭部を大きくかち割った。


「アル! アル!」


「ははは~。そんなに泣くなよミカ…」


「アルお兄ちゃんってば! もう! 私に起こしてって、言ったじゃない!」


 妹のモユルが怒って部屋に起こしに来たが、


「う。う~ん…。あ…。あれ~? 俺の大剣、エクスカリバーは~?」


「もう、知らない!」


 アルの目覚めは寝ぼけていて、モユルはドアをバタンと閉めて部屋を出て行った。


「あ~。あれは夢だったのか~…」


 そして、アルは出掛ける支度を始めた。





 ここは惑星:スピリット。この惑星には多くのモンスターが棲んでいて、生憎、人族とモンスターは敵対関係にある。どちらもそれを捕まえて食糧としているからだ。


 この街はラビアンローズと呼ばれている。それほど大きな街ではないが、病院などの最低限の施設は揃っている。街並みは石造りの建物が多く、緑は少ない。


 アルは地球系三世の十五歳の少年で、髪の色は黒い。地球系三世なのは祖父が若い時に地球からこの星に訪れたからだ。地球が核の冬で住めなくなり移住してきた。しかし、全く住めないという訳ではなく、一部の人々は今も地球に残っている。もう40年も昔の話になるが。


「じいちゃん、行ってくるよ!」


「おう。気を付け行ってこい」


 今日はアルが冒険者登録に向かう日だ。


「おはよ! アル!」


「うわあっ! びっくりしたな~。なんだ、ミカか」


 早速、家を出発したアルの両肩に突然背後から手を掛けたのは、近所に住む幼馴染の少女のミカだ。髪は緑色のショートボブで、目はクリっとしていて可愛らしい。ミカはしてやったりとほくそ笑みながら、アルの隣に並ぶ。


「どこに出掛けるの?」


「この格好を見ればわかるだろ。冒険者登録に行くんだよ」


「ああ~。そういえば、そんなこと言ってたわね」


「おまえこそ、どこに行くんだよ?」


「この格好を見ればわかるでしょ!」


 見た目でそれとなく気付いていたアルだが、皮肉も込めて敢えて聞き返していた。


「ついでなんだし、一緒に行きましょ!」


 こうして、アル達は二人で冒険者ギルドに向かうことになった。




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2023年7月4日火曜日

まずは、挨拶。


 小説を書いていこうと思います。

初めのうちは練習用になるかと思いますが、

宜しくお願いします。



更新ペースは不明です。

100話まで書けたら、カクヨムなどに投稿してみようかと考えています。

「スキルマスター」という小説を書いていますが結構大変で、

息抜きとしてここで遊んでみようかなと。

テスト的な面もあるので、ご了承ください。



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17.二匹目

   クロムとバリアントの戦闘が始まる。  クロムはAランクの冒険者だ。バリアントと言えど、一層に現れる奴に後れを取ることはない。ハサミの攻撃を軽く躱しながら、それを切り飛ばす。 「すご~い!」 「私達なら、あれぐらい平気だよ~」 「うん」  ミカ達は驚いているが、キキとミルフィ...