2023年8月20日日曜日

9.装備


翌朝。


 アルが集合場に向かっていると、ミカに出会う。


「おはよ~アル…。ふわぁ~」


「おはよ~…。なんだいきなり? 眠いのか?」


「うん…」


 ミカは眠そうな目をこすりながら返事を戻した。


「ダンジョンが楽しみで、眠れなかったのか?」


「う~ん、違う~。昨日は近所の人が家に遊びに来てて。スカイボールの話でずっと盛り上がってたから、眠れなかったの…」


「はあ~。今日はダンジョンなんだから、早くシャキッとしろよ!」


「ふぁ~い」


 ダンジョンデビューの日ではあるが、二人の朝は和やかだった。





 二人が町外れの廃墟に到着すると、クロム以外のメンバーは既に集まっている。


「な、なんか…、皆、凄い装備よね…」


 それを見て目覚めたミカは、目をパチクリさせる。そのあと、もじもじし始める。


「恥ずかしいのか?」


「だって…」


 今日のメンバーは、全員装備を身に付けている。アルの装備は、武器が初心者用のソードとシールドで腰と背中に身に付けている。防具は、見た目がカジュアルな革性の服だ。ミカは、武器が初心者用の魔法使いの長い杖。防具は、少し厚手の布の服だ。それらは街で安く手に入れられる物でばかりで、見た目は、まあ普通だ。


「そんなの、気にしたってしょうがないだろ。それより、早く皆のところに行こうぜ!」


「もう、待ってよ~…」


 駆け出したアルも、この事を気にしていないわけではない。しかし、今は皆の装備が気になり、ミカを置いてけぼりにした。






「皆、おはよう!」


「おお! アル殿! おはようございますですな。今日は宜しくですなが、ミカ殿はどちらに?」


 アルに気付いて話しかけたブラウンの髪色の大男は、マックスだ。昨日もアル達と会話をしている。そして、語尾に「ですな」を付ける癖がある。


 マックスの装備は、武器が片手用ハンマーと大盾で腰と背中に身に付けている。防具は全身にエングレイブの刻まれたホワイトのプロテクターだ。


 この世界は機械文明が発達していて、装備品はメカニカルな物が多い。それと、エングレイブは、簡単に言えば刻印のようなものだ。これを武器や防具に刻むことで特殊効果を持たせられる。金属製の装備にはそれを削って刻むが、布製などの装備には刺繍のように刻むこともでき、それを隠すこともできる。プロテクターは、防具のパーツのことだ。


「あそこだよ。それより、クロムはまだなのか!?」


「いつものことだ。気にするな」


 外壁にもたれたまま話したオレンジの髪色の長身な男は、グレンだ。普段は無口で会話を好まないが、今は機嫌が良いようだ。その場から動く様子はなく、クロムは少し遅れて来そうだ。


 グレンの装備は、武器が長弓で背中に身に付けている。防具は、エングレイブが刻まれたベージュのスーツだ。プロテクターは右肩に付けている。


「クロムが来る前に、今日の事を簡単に説明しておくわ」


 瓦礫の上に座ったまま話したクリームの髪色の女性は、エルルだ。話の終わりに、アルと遅れて来たミカに手招する。


 エルルの装備は、武器が膝の上に置いてある長い杖。防具は、エングレイブの刻まれたピンクとホワイトのボーダーのタンクトップにピンクの短パンとロングコートだ。プロテクターは腰に付けている。


「今日は初めての探索だから、一層だけ見て回るわ。まだ何も分からないけど、今までの経験上五層は続くはずだから。一応、この事は頭の中に入れておいて」


 頷いたアルとミカは、この辺りの話はなんとなくだが理解している。冒険者になるために、勉強していたからだ。


「それと、出来立てほやほやのダンジョンだから、中に入って何が起こるか分からないわ。イレギュラーなことが起こるかもしれないから、二人はできるだけミルフィーの近くに居て。ミルフィー、いいわね?」


「う、うん。た、頼りない私だけど、よろしくお願いします!」


 側から駆け寄り勢いよく頭を下げて話したブルーの髪色の小柄な女性は、ミルフィーだ。昨日のギルド内でクロムに返事を戻したのはこの子だ。


 ミルフィーの装備は、武器が短剣と小盾で腰と左手に身に付けている。防具は、エングレイブの刻まれたブルーとホワイトのドレスだ。プロテクターは両手に付けている。


「こ~ら~。先輩なんだから~、しっかりしなさい!」


「あっ。ご、ごめんなさい。つい…」


 ミルフィーはクロムのパーティーメンバーの中で一番年下で、反射的に普段の話し方が出てたようだ。


「それから、キキ」


「な~に~?」


「キキも、二人の護衛をお願い。余程の事がなければ大丈夫だとは思うけど…」


「任せて~。アルちゃんとミカちゃんは、私が守ってあげる~」


 ふらふらとアル達の下に歩きながらまったり話したブラックの髪色の小柄な女性は、キキだ。見た目はボーっとしているが、実は性格に難がある。


 キキの装備は、武器が二丁の拳銃で腰に身に付けている。防具は、エングレイブの刻まれたブラックのボディースーツにホワイトのジャケットだ。プロテクターは両足に付けている。加えて、自前の真っ白な三角な耳と白黒の細いしっぽがある。キキは猫耳族だ。


「とりあえず、以上ね。何か質問はある?」


「移動は、どうするんだ?」


「ああ。忘れてたわ。移動はボードを用意してあるから、キキとミルフィーに付いて行って」


「わかった」


「うん」


 顔を見合わせたアルとミカは、少し頬を緩めながら頷いた。


 このあと、クロムが到着するまで、皆で雑談を交わすことになる。


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2023年8月12日土曜日

8.準備


 「出発は明日の朝だ! お前ら準備しとけよ!」


「は、はい!」


 振り向いたクロムは、そこに居る仲間達に指示を飛ばした。すると、頭からローブを纏っている少女が緊張して声を上げた。


「アル達も、それでいいか?」


「うん、いいよ!」


「私も、いいわ」


「よし! それじゃあ明日の朝8時に、南門に集合だ!」


 クロムは全員に伝わるように、再び指示を飛ばした。そして、仲間達と細かな打ち合わせを始める。


「アル。移動はどうする?」


「どうすっかな~。じいちゃんに、頼んでみるかな~…」


「それは心配するな。今回は俺達が運んでやるよ。何なら、装備も貸してやるぞ?」


 クロムたちを見ていたミカが不安げに尋ね、アルも悩んだ。クロムが振り向き二人に提案すると、ミカの顔が少しこわばる。


「そ、装備はいいわ。自分の物を使った方が、動き易いし。それに…」


「臭そうとか、言うんだろ?」


「言ってないじゃない!」


 ミカはもじもじし始め、話を途中で止めた。アルがその心を見抜き、図星なミカは顔を真っ赤に染めながら声を張り上げた。


「あははは。女の子だもんな~」


 クロムが再びミカの頭を撫でる。


「もう! アルのバカ!」


 その手を払い除けたミカは、アルとじゃれ合い始める。


「それならそっちは任せるぜ~」


 クロムはひらひらと手を振り再び仲間の方に振り向く。


「お前ら、そろそろ宿に向かうぞ」


「はーい」


 仲間のもう一人のローブを纏った少女が無感情に返事を戻し、クロム達はギルドをあとにした。


「アル。このあと、どうするの?」


「俺は明日の準備をするから、一回家に帰るよ」


「そうね。私も、明日の準備をしようかな」


 アルとミカもギルドをあとにし、それぞれの家に帰った。



 ★



「じいちゃん、ただいまー」


「おう、お帰り。どうじゃった?」


「力の適正だったよ」


「そうかそうか。良かったな」


 おじいさんはモニターを見ながら尋ね、お茶をすすりつつ返事を戻した。


「なんか、反応が薄いな~」


「まあ、予想はしてたからの。アルは不器用じゃから、こうなると思っとったよ」


 アルのハートにグサリと何かが突き刺さった。


「ふぉふぉふぉ」


「ひでーな~。まあ、いいけど」


 おじいさん微笑ましく笑い、アルの直ちに立ち直った。アルは、ポジティブだった。


「それよりさ、じいちゃん」


「なんじゃ?」


「明日、クロム達とダンジョンに行くことになったよ」


 流石に、これにはおじいさんも驚いた。


「急な話じゃな。何があったんじゃ?」


 アルはおじいさんに今日の出来事を話した。


「そうか。そんなことがあったのか」


「行っても、いいだろ?」


「ああ、構わんよ。じゃがの、ダンジョンは危険だと言うことは忘れるなよ?」


「わかってるさ」


「それならいい。クロム達に、迷惑を掛けんようにな」


「それも、わかってるよ! ところでじいちゃん、俺の装備はどこだ?」


 アルは、このままではまた昔話を聞かされると考えたのであろう。突然話題を変えた。


「それなら、洗濯をして押し入れにしまっておいたぞ」


「わかった。ありがと!」


 少し戸惑ったおじいさんがそう伝え、返事を戻したアルは押し入に向う。


(やはり、ダンジョンが現れたか…。何事も起こらなければ、いいがの…)


 おじいさんは、実はアルのことを心配していた。そして、せんべいをかじりながら、再びモニターでニュースを眺め始めた。


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2023年8月4日金曜日

7.勢い

 

「そうなのか、クロム?」


「アル! 疑うのか!? 俺はぜ~~~たい! その気はないぞ!」


「はあ、違うよ。ダンジョンのことだよ」


「んん!? あ、ああ。ダンジョンのことか。まあ、何となくな」


 頭を掻きながら未だ頬の赤いクロムを見たアルは、本当はその毛があるんじゃないかと疑った。


『パン!』


「それなら、任せちゃってもいいわね!」


「はあ~。仕方がねえ」


 ギルドマスターが突然手を叩き、体をくねらせて話をした。クロムは渋々これを了承した。そんな時、


「お…、俺も、付いて行っていいか!?」


 アルが勢い良く声を上げた。それは、この賑やかな場の空気に当てられたものかもしれない。しかし、冒険を待ちきれなかったのだ。


「アルはまだ、冒険者じゃないだろ?」


「俺も今日から冒険者だ!」


 豆鉄砲でも食らったかのような顔をしたクロムはそう尋ねたが、アルは一歩前進して思いを乗せて訴えた。すると、その背後からミカがアルの隣に並ぶ。


「ちなみに、私も今日から冒険者よ!」


「お前ら…。二人とも、冒険者になったのか! そうかそうか。良かったな~!」


 クロムは爽やかに笑いながら二人の頭を撫でる。


「や、やめてくれよ~」


「そ、そうよ。子ども扱い、しないで!」


 アルとミカはその手が嫌ではなかったが、恥ずかしいので振り払う。


「まあ、お前らの頼みなら、聞かないわけにはいかねぇか」


「ちょっと! こんな子供で大丈夫なの? 足手纏いになるわよ」


 アルとミカを見下ろしながらクロムが顎を撫でていると、突如、背後の女性がその肩を掴み忠告した。


 この女性はクロムのパーティーメンバーだが、アル達との面識はあまりない。何故なら、クロムがアル達に合うのはのおじいさんのところへ向かう時で、それは決まっていつも一人だからだ。


「こいつらなら大丈夫だ。爺さんに鍛えられてるからな。それに、初めのダンジョン探索は奥には進まないからな」


 今回のように新しいダンジョンが発見された場合は、初見では深いところまでは進まない。まずは入り口付近を調査し、そのダンジョンがどのようなものかを調べてから奥に向かうのが一般的だ。


「それはそうだけど…。この子達、装備も持ってないんじゃないの?」


「装備は…、持ってるわ! 練習の時に、使ってるものだけど…」


 ミカは馬鹿にされたと思い言い返したが、装備には自信がなかった。


「ほら~」


「そう言うなって。俺も初めての時はこんな感じだったんだ。なんとかなるさ。それに、お前達にも話しただろ。俺が初めてダンジョンに行った時の事を…」


 女性は呆れていたが、クロムが苦い思い出を思い出すように後ろに振り向くと、そのメンバーと共に苦い表情を作った。


「それが、先輩冒険者の務めというやつですな!」


 背後の仲間の一人の大男がアル達に近寄る。


「但し、自分の身は自分で守るように! そこは守ってくださいな!」


「わかったよ!」


「わかったわ!」


 こうして、勢いから出てしまった言葉が、アル達をダンジョンへと導くことになった。


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2023年8月2日水曜日

6.ギルドマスターとクロム

 


「ダンジョンだ! ダンジョンが現れたんだよ!」


「ちょっと落ち着いてください。話の内容がよく分かりません」


 アルとミカがギルドに到着すると、先程の男がカウンターで大声を上げていた。二人目の女性の職員が男に水を手渡す。


「はあ、はあ、済まない。ずっと走りっぱなしだったからな」


 男はその水を飲み干すと、少し落ち着きを取り戻した。


「ダンジョンだ。ダンジョンが現れた」


「それはさっきも聞きました。ダンジョンなんてどこにでもあるでしょう」


 この星にはダンジョンと呼ばれる、未だ解明することができない未知のエリアが存在する。それは攻略されると消滅し、また別の場所に現れる。


「違うんだ。街のすぐ近くに現れたんだよ!」


 男の言葉にギルド内はどよめく。そして、カウンターの奥からマッチョな男が現れる。


「その話は、本当なのかしら?」


 この男はオカマだが、この街のギルドマスターだ。


「本当だ、マスター。俺はこの目で見てきたんだ。信じてくれよ~」


 嘆願する男の瞳を、ギルドマスターが覗き込む。そしてじっくりと見つめたあと、


「まあっ! みんな聞きなさい! ダンジョンが出現したわよ!」


 両手を頬に添えながら姿勢を戻し、確信を持ってそう告げた。


「うぉーーー! ダンジョンだ!」


「街の近くに、ダンジョンが現れたぞ!」


「酒持って来い!」


「今日は飲みまくるぞ!」


「うぉーーーー!」


 ギルド内に歓声が巻き起こり、お祭り騒ぎになる。


「あなた。私にもう少し、詳しく説明しなさい」


 怪しく微笑んだギルドマスターは、男をお姫様抱っこする。男は、止めてくれ、恥ずかしいと泣き叫び抵抗するが、そのままギルドの奥にお持ち帰りされた。



 ★



「おう! ここも賑わってるな!」


 騒ぎ始めたギルド内の視線が、入口に集まる。そして、そこで呆気に取られていたアルとミカは横を向く。


「あっ! クロム、帰ってたのか!」


「ようアル! 久しぶりだな~。元気だったか?」


 クロムは、アルの髪をぐしゃぐしゃした。


「「「キャーーー!!!」」」


「クロム様よ!!!」


「カッコいいー!」


「ステキよー!」


「キャー! キャー! キャー!…」


『バタン バタン バタン』


 黄色い声援が飛び交い、女性冒険者達がその場に意識を失い倒れていく。そんな中、先程の男とギルドマスターが奥から戻って来る。ギルドマスターはそのまま、クロムの前に歩み寄る。


「おかえりなさいクロム。調子はどう?」


「まあ~、ぼちぼちだ」


「あらそう。それは良かったわ」


 ギルドマスターが熱いウィンクを贈った。それを切っ掛けにして、


「クロムが帰ってきたぞー!」


「うぉーーーーー、クロムだー!」


 再びギルド内が盛り上がった。


 この白髪のラフな服装をした男は、クロムと言う。この街で生まれ育った、Aランクの冒険者だ。


 冒険者には、ランクが付けられている。ランクはFから始まり、最高がSSSだ。しかし、SSSの者は現在存在しない。また、SやSSランクの冒険者も数えるほどしか存在しない。そして、クロムは次のSランク冒険者と噂をされている。


「にしても、街の騒ぎとは少し雰囲気が違うな~。何かあったのか、アル?」


「ダンジョンが、近くで見つかったんだ」


 クロムは目を丸くしたがアルの肩に片手を置き、


「はっはっは~! そりゃ~、めでていこった!」


 もう片方の手で顔を押さえて高らかに笑った。


 クロムは、アルと仲が良い。時々、クロムがアルのおじいさんに会いに、家に訪れているからだ。しかし、訪れて来る理由は、アルは知らない。


「丁度良かったわ。クロム、そのダンジョンを調べてくれないかしら?」


「おいおい。俺はさっきこの街に来たばかりなんだぜ。それに、祭りを見に来たんだ」


 ギルドマスターの話にクロムは面倒臭そうにしているが、


「そんなこと言って~。実は、気付いていたんでしょ?」


 この話にピクリと反応を示した。ギルドマスターは体をくねらせながらクロムに近づく。


「や、やめろ! 俺にその毛はない!」


 クロムは蟹股で、後ろに後退った。


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2023年8月1日火曜日

5.スキル適正と駆ける男

 


 この世界にはスキル適正と呼ばれるものがある。これはそのものの個性であり、あらゆる生物が所持している。その種類はこの様に分かれている。


☆力の適性


 物理攻撃力に影響する。


 強ければ重い物などが持てる。



☆器用さの適性


 命中率に影響する。


 弓や銃の精度が上がり攻撃を当て易くなる。



☆丈夫さの適性


 物理防御力に影響する。


 打たれ強くなる。



☆敏捷の適性


 素早さに影響する。


 速く動けるようになる。



☆知力の適正


 魔法の攻撃力に影響する。


 攻撃魔法の威力が上がり、効果範囲も広がる。



☆精神の適性


 魔法の防御力に影響する。また、回復や補助の魔法にも影響する。


 魔法に対する防御力が上がる。また、回復魔法や補助魔法の効果が上がる。



☆運の適性


 運に影響する。


 ドロップアイテムの獲得率、宝箱の遭遇率などが上がる。



☆魅力の適性


 可愛さ、かっこよさ、リーダーシップなどに影響する。


 歌い手、踊り子などの特殊効果が上がる。テイマーのテイム率も上がる。



 ★



「あ~あ。俺は力の適正か~」


「いいじゃない。そんなに悪くない適正だし。運の適性とかだったら、大変だったわよ」


「まあな~」


 力の適性は汎用性があり悪いものではない。しかし、所持者が多く平凡な適正と呼ばれる。


「それに、私の精神の適性と相性がいいんだから、これなら今すぐにでも二人でパーティーを組めるわよ!」


 それを強調したミカは、自分を売り込むためにアルに顔を近づける。お子様なアルは、その顔を両手で押し返す。ミカはむっとし、


「アルのバカ…」


 女心の分からないやつだと、両頬を膨らませた。


「そうだな。力の適性はそんなに悪いものじゃないし、我慢するか!」


「ご飯できたわよ~」


 アルが話をすると、一階から声が届いた。


「は~い。今行く~! アル、行きましょ」


「ああ、腹減ったしな!」


 それほど悪くはない結果に二人は満足し、階段を下りていく。





 お昼を食べたあとの二人は、街をぶらついている。今日はスカイボールの決勝戦が開催され、今は試合が終わり街中は花火が上がりお祭り騒ぎだ。


「何か食べよ!」


「さっき昼を、食べたばかりだろ」


「デザートよ。デザート!」


 甘いものは別腹なミカは、近くの出店からクレープを二つ買う。


「はい。イチゴで良かったでしょ?」


「チョコレートの方が良かったんだが…」


「嘘ばっかり。イチゴの方が好きなくせに」


 ミカがお揃いの美味しそうなイチゴのクレープを差し出し、アルは顔を横に背けてそれを受け取る。ミカの言う通り、アルはただ、男でイチゴ味のクレープを食べながら大勢の人混みの中を歩くことが、恥ずかしいだけだった。なんとも歯がゆい。





 賑わう街中をぶらついていると、一人の男が大慌てで大通りの人混みの中を駆け抜けて行く。額から大量の汗を流し、その姿はタダならぬものを感じさせる。


「どうしたんだ?」


「何かあったのかしら?」


 男を視線で追うと、どうやらギルドに向かっているようだ。


「行ってみる?」


「当然!」


 15歳のアルはまだまだ、好奇心旺盛だ。


「ちょっと、待ってよ~」


 駆け出したアルに、ミカは仕方がないと声を掛けた。2人は先程の男を追いかけ始めた。


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17.二匹目

   クロムとバリアントの戦闘が始まる。  クロムはAランクの冒険者だ。バリアントと言えど、一層に現れる奴に後れを取ることはない。ハサミの攻撃を軽く躱しながら、それを切り飛ばす。 「すご~い!」 「私達なら、あれぐらい平気だよ~」 「うん」  ミカ達は驚いているが、キキとミルフィ...